東京高等裁判所 昭和25年(う)1020号 判決 1950年6月15日
被告人
新井要市こと
荻沼政之助
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役弐年に処する。
原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
弁護人荻原由太郎の控訴趣意第一点について。
原判決が累犯となるべき前科として「被告人は昭和二十二年五月水戸区裁判所において窃盜罪により懲役弐年に処せられその刑の執行を受け終つたもの」であるとの事実を掲げているのに拘わらず、本件訴訟記録及び原審において取り調べた証拠に現われている事実を精査しても、これを認むべき証拠のないことは論旨指摘のとおりであつて、累犯となるべき前科は、刑事訴訟法第三百二十五条第一項に所謂「罪となるべき事実」ではないから必らずしも公判廷において適式な証拠調を経た証拠によつてこれを認定しなければならないという訳ではないけれども、刑の加重原由として量刑上重大な関係のあることは固よりであるから、これを認定するには証拠によらなければならないと謂うべきである。従つて原審が証拠によらずして判示の如き前科を認定し、これに基いて累犯加重を施したことは畢竟判決に理由を附さなかつたか乃至は理由にくいちがいがあるに帰するからこの点に関する論旨は理由がある。